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CX導入ガイド
CXマネジメント フレームワーク

CX Introduction Guide 03

CXマネジメント
フレームワーク

CXマネジメントを成功させるには、効果的な顧客体験の設計を行うだけでなく、
自社組織内の多くのステークホルダーと共通のビジョンや目的意識を持つことが必須となります。
ここではCXマネジメントフレームワークを構成する各要素について詳しく解説し、
それぞれがどのように連携して企業全体のCX戦略を形成し支えるかを紹介します。
具体的には、フレームワークの基本となるCXビジョンの設定、
顧客から得た洞察に基づくデザインプロセス、これらを支える測定とガバナンス構造、
さらにこれら全体を浸透させる組織文化の醸成方法を説明します。

CXマネジメントで
ビジネスを変革する

CXマネジメントを通じて自社のビジネスのやり方を大きく変えることは、これまで見逃されてきた自社の根本的な課題を解決することに直結します。経営層にとって、CXマネジメントによるCX変革は、自社のビジネス変革を意味します。CXマネジメントには、以下の変革が含まれます。

「パーパスやブランドとCXの乖離」から「パーパスやブランドとCXの一致」へ
パーパスやブランドプロミスとCXを整合性のあるものにし、一貫性のあるCXを提供できるようにします。
「部門毎の目標・指標」から「共通の目標・指標」へ
個々の部門の部分最適ではなく、組織全体の目標と指標に基づいて、組織が一体となって成果を追求できるようにします。
「サイロ化した活動」から「活動のオーケストレーション」へ
部門間のサイロを解消し、組織全体で協力・連携してシームレスな顧客体験を提供できるようにします。
「経験と勘によるアプローチ」から「データ駆動のアプローチ」へ
従来の経験や勘に頼ったアプローチから脱却し、データ駆動の意思決定を進め、より合理的・効果的な活動を展開できるようにします。
「後手の対応」から「能動的に先取りした対応」へ
データに基づく仮説検証サイクルを素早く回して知識やノウハウを蓄積することで、顧客ニーズへの適応力を向上させ、能動的な対応を実現します。
「命令と統制」から「自律と参加」へ
従業員の能力や創造性を最大限に活用し、従業員による自律的な問題解決や、組織全体の意思決定プロセスへの参加を促進します。

CXマネジメントの実践フレームワーク

CXビジョン、顧客インサイト、CXデザイン、デジタル技術、CX測定、管理体制、CXカルチャーの7つの分野はどれも欠かせませんが、全社的にCXマネジメントを導入する際には、それぞれの分野の位置付けを無視して、すべてを同時に、あるいはそれぞれを個別に取り組むのは効果的ではありません。

CXマネジメントの実践フレームワークは、はじめて全社的なCXマネジメントに取り組む企業が、ステップに沿って、自社が持続的なCX向上を推進する上で必要になる方針、プロセス、しくみ・体制を確立するためのガイドを提供します。

このフレームワークは、1.方向を定める(CXビジョン、デジタル技術)、2.解決策を生み出す(顧客インサイト、CXデザイン、デジタル技術)、3.維持・強化する(CX測定、管理体制、デジタル技術、カルチャー)の3つのステップに分かれています。
このステップを実行することで、その成果を早い段階で得て、自社のCX変革を軌道に乗せることができます。

方向を定める
(CXビジョン、デジタル技術)

このステップでは、自社がどのような顧客体験を提供したいのか、自社のパーパスやブランド、ビジネス戦略と整合性がとれたCXビジョンと理想のカスタマージャーニーを定義し、組織全体で共有します。その上で、理想のカスタマージャーニーを実現するためのデジタル技術導入のロードマップを描き、自社のCXをどのように進化させていくかを計画します。

CXビジョンと理想のカスタマージャーニーを定義し、共有する

CXビジョンを、自社が目指すべき方向を示すものにするためには、経営層の考えやビジョンに基づいて、自社のパーパスやブランド、ビジネス戦略に沿ってCXビジョンを策定することが欠かせません。しかし、本当に優れたCXビジョンを構築するには、自社や経営層自身の内側の視点だけでは不十分です。

まず第一に、提供しようとするCXを顧客が求めるものと合致させる必要があります。そのためには、顧客が求めるCXについての深いインサイトが必要です。また、競合他社との差別化を図るためには、CXビジョン自体が独自性を持たなければなりません。そのためには、競合他社のCXを分析する必要があります。自社の視点だけではなく、顧客と競合他社を深く理解し、得たインサイトに基づいて独自のCXビジョンを導き出すことが、優れたCXビジョンを策定するポイントになります。

自社が目指しているCXが具体的にどのようなものか、CXビジョンを顧客体験の流れに沿って一枚のパノラマで視覚化したものが、理想のカスタマージャーニーマップです。理想のカスタマージャーニーマップを描き出す作業は、CXビジョンを策定するプロセスの中で行われます。理想のカスタマージャーニーを具体的に想像することで、自社が目指すべきCXの方向が鮮明になり、より明快なCXビジョンを定義することができます。

CXビジョンや理想のカスタマージャーニーマップは、組織全体で共有されなければなりません。その際、共有のレベルが重要です。単にCXビジョンや理想のカスタマージャーニーを知っている、理解しているだけでは不十分です。従業員を鼓舞し、組織全体で顧客中心の行動を促すには、一人ひとりがCXビジョンに共鳴し、自らがそのビジョンを所有していると感じることが必要です。映像などを使ってCXビジョンや理想のカスタマージャーニーを従業員の心に響くストーリーとして共有する。対話やワークショップを通じてそれぞれの業務との関連性を明確にし、理想のカスタマージャーニーを実現するために自分たちの業務にどのような変革が必要かを理解し、共有する。具体的な行動に結びつけるためのガイドやトレーニングを提供する。経営層が従業員にCXビジョンについて自分自身の言葉で語りかけることも重要です。これらの活動を一連のプログラムとしてデザインし、提供することで、CXビジョンをより深く共有することが可能になります。

デジタル技術導入のロードマップを描く

CXの実践にはデジタル技術の導入が不可欠ですが、企業によっては、ソフトウェアの導入やデータ活用がサイロ化している状況が少なくありません。中長期的な視点を抜きに、個々の部門が短期的な施策の実行にだけ焦点を当ててデジタル技術を導入してしまうと、CXビジョンが目指す方向からズレてしまう、同じようなシステムが重複してしまう、新たな施策を実行するために想定外の追加の投資やシステムの更新が必要になる、といった問題が生じてしまいます。

CXにおけるデジタル技術は急速に進化し、常に新しいソフトウェアやツールが市場に登場していますが、完全なソフトウェアは存在しません。また、CXにおけるデジタル技術の変化は速く、最新の技術でも数年で陳腐化します。CXにおけるデジタル技術の導入では、将来の変化に対応するための柔軟性と適応性を確保しながら、中長期的に自社のCXを提供する能力をどのように向上させ、理想のカスタマージャーニーを実現するためにCXをどのように進化させるかという視点で推進する必要があります。以下のステップで自社のデジタル技術導入のロードマップを描き、中長期でのデジタル技術導入の方向を定めます。

1.CXに関わる自社のデジタル技術の導入状況と成熟度を把握する
2.デジタル技術導入に関わる最新の情報・知見をベースに、デジタル技術導入の機会とリスクを洗い出す
3.CXビジョンに沿って、理想のカスタマージャーニーの実現へ向けて、デジタル技術導入の戦略を立てる
4.デジタル技術導入のロードマップを描き、超短期、短期、中期、長期のステップを可視化する


ロードマップを描く上で最も重要なポイントは、CXビジョンと理想のカスタマージャーニーに沿って、自社が顧客にどのような体験、成果を提供したいのかに焦点を当てることです。デジタル技術は急速に変化していきます。ここで策定するロードマップは厳密な計画ではなく、デジタル技術の変化を常に把握しながら、定期的な見直しを行います。

解決策を生み出す
(顧客インサイト、CXデザイン、デジタル技術)

このステップでは、デジタル技術を活用して優れたCXをデザインするために、組織に必要なプロセス、手法、しくみ、体制、スキル、ツールを確立していきます。

人間中心のデザインプロセスを確立する

多くの企業が、CXデザインで2つの間違いを犯しています。一つは、顧客を深く理解し、顧客インサイトを得るプロセスを省いてCXをデザインしようとすること。二つ目は、CX全体の流れをデザインするプロセスを省いて個別の接点の具体的なデザインに焦点を当てようとすることです。
CXデザインは、問題を見つけるプロセス、解決策を見つけるプロセス、解決策を具体化するプロセスからなります。上記のような間違いは、問題を見つけるプロセス、解決策を見つけるプロセスが不十分であることから生じます。人間中心デザインのアプローチを採用して、適切なCXデザインのプロセスを確立します。
問題を見つけるプロセスでは、問題を幅広く探索し、そこから鍵となる顧客インサイトを導き出していきます。ここでは、1対1のデプスインタビュー、観察、エスノグラフィックインタビューといったリサーチ手法や、得られたインサイトを具体的な人物像(ペルソナ)や顧客の一連の行動を一枚のパノラマで表現(カスタマージャーニーマップ)するなどの手法が用いられます。

解決策を見つけるプロセスでは、問題を見つけるプロセスで得た顧客インサイトに焦点を当てて、可能な解決策を幅広く探索し、そこから最も適切な解決策を導き出していきます。様々なアイデア発想法や、アイデアを素早く視覚化してユーザーにテストするプロトタイピング、顧客が体験する体験するストーリーを視覚化するソリューションストーリーボード、サービス全体のつながりを視覚化するサービスブループリント、ビジネスモデルを視覚化する価値交換マップやビジネスモデルキャンバスといった手法が用いられます。
解決策を具体化するプロセスでは、導き出した解決策を具体的にデザインしていきます。製品、アプリ、webサイト、空間・環境、イベント、メディア・ツールなど、全ての顧客接点と、そこで必要になるデジタルシステムが対象となります。この段階では、各分野の専門デザイナーやデジタルシステムを構築するエンジニアの活動が中心になりますが、解決策を見つけるプロセスと同様、プロトタイプを作成して検証する手法が用いられます。
人間中心デザインの各段階には様々な手法があります。それらすべてを採用しようとするのではなく、自社に適した手法を選定し、それを適切にチューニングして、自社の標準的な手法としてデザインプロセスの中に組み込んでいきます。

CXチームを編成する

CXデザインを実行する組織・チームを編成します。このチームは、CXデザインだけではなく、CXビジョン、CX測定、管理体制、CXカルチャーの分野においても施策を立案・デザインし、その実行において部門間の連携を促進する役割を担います。

CXチームの編成において、CXマネジメント全体の推進や、各CX施策を立案やその推進については社内の人材が不可欠ですが、プロセスのあらゆる機能を自社内で完結させることは必ずしも正解ではありません。自社が目指そうとするCXビジョン、自社の現状のデザイン能力・体制、​​社内にデザイン機能を持つメリット・デメリットを踏まえて、社内の人材と外部活用の両面から適切なCXチームを編成します。
社内の人材か、外部を活用するかに関わらず、CXチームには以下の役割を担う人材が必要になります。

CXマネージャー
CXマネジメントの6つの分野に関わるCX施策の立案、リソースの調達、成果の評価、さらなる改善機会の発見を通じてCXマネジメントを推進します。
CXプログラムマネージャー
各CX施策の進行管理、部門間の連携、リソースの調整を行い、CXデザインのプロセスを円滑に進めます。
デザインリサーチャー
顧客のニーズや行動を調査し、顧客インサイトを収集して、デザインの方向性を示す情報を提供します。
CXデザイナー
一連の顧客体験全体のデザインを担当し、顧客が製品やサービスとのやり取りを通じて得る感情や体験をデザインします。
UI/UXデザイナー
ユーザーが製品やサービスをどのように使うかを理解し、その使いやすさや満足度を向上させるための体験やユーザーインターフェースをデザインします。
CXデータアナリスト
ビジネスの視点から顧客の成果やゴールを理解し、それらをデザインに反映させるための要件を定義します。また、顧客データを収集・分析して、顧客セグメンテーション、顧客行動の予測、アクション可能なインサイトを提供します。
その他の専門デザイナー、エンジニア
グラフィックデザイナー、プロダクトデザイナー、Webデザイナー、空間デザイナー、コンテンツストラテジスト等の専門デザイナー。フロントエンジニア、ソフトウェアエンジニア、データエンジニア、データサイエンティスト等のエンジニア。

社内の人材を登用してチームを編成する場合、必要に応じて人材育成のためのトレーニングやガイドを提供します。適切なデザインツールを整備し、メンバーがそれらを効果的に使えるようにすることも重要です。

維持・強化する
(測定、ガバナンス、デジタル技術、カルチャー)

このステップでは、デジタル技術を活用してCXの持続的な改善を確実に実行するためのオペレーションのプロセスやしくみを構築します。また、顧客中心のカルチャーを定着させ、すべての従業員がCXビジョンの実現に向かって自律的な改善に取り組めるようにします。

CXの改善サイクルを確立する

CXの改善を場当たりなものではなく、継続的なものにしていくために、CX施策の成果を測定し、その結果からインサイトを得てさらなる改善活動に繋げられるようにするプロセス・しくみを構築します。
CXの良し悪しは、顧客一人ひとりの主観的な感じ方に委ねられています。したがって、優れたCXを提供できたかどうかを知るためには、例えばサービスの待ち時間の短縮を体験した顧客が、そのことをどのように感じたかを測定し、それまでと比較して感じ方がどのように変化したかを知る必要があります。ビジネス成果においては、待ち時間の短縮を体験することで顧客の感じ方がどのように変化し、それがどのようなビジネス成果をもたらしたか、という関係で理解する必要があります。したがって、CX測定では、顧客がどのようなやり取りを体験したか(インタラクション)、それをどのように感じたか(パーセプション)、その結果どのようなビジネス成果がもたらされたか(アウトカム)、という3つの指標が必要になります。
 
一方、この3つの指標を個々の顧客接点のレベルで測定するだけでは、効果的な改善に繋げることはできません。CXが最終的に目指しているのは顧客ロイヤルティの向上ですが、顧客ロイヤルティは、企業との一連のやりとりを通じて顧客が価値を得たと感じたかどうかという結果の積み重なりによって形成されていきます。そして、一連のやりとりで顧客が価値を得たと感じたかどうかは、ひとつひとつの顧客接点の積み重なりによって形成されます。したがって、CXの測定では、個々の顧客接点、顧客のジャーニー、顧客関係、の3つのレベルを紐づけて測定・分析する必要があります。
 
こういったCX測定の考え方をベースに、どのような指標を使って、どの顧客接点で、何を、どのように測定・分析し、その結果を誰に提供するかを決め、CX測定のフレームワークを構築します。測定結果をしかるべき部門・スタッフにタイムリーに提供できるようにすることで、結果を得た部門・スタッフは、フレームワークに沿って施策の成果を検証し、新たな仮説を立てることができるようになります。あらゆる部門が改善サイクルを効果的に回すことができるようにするためには、こういったCX測定のプロセス・しくみの構築が欠かせません。
優れたCX測定のフレームワークが構築できても、しかるべき部門・スタッフがそれを活用しなければ何の意味もありません。CXの改善サイクルを確実に定着させるためには、CXに対する各人の責任を明確にし、改善サイクルの遂行を確実なものにするための管理体制が必要になります。CX委員会の設置や、活動のルール・基準の制定などが具体的な施策になります。一方、合理的で実効性の高い意思決定を可能にするためにも、CX委員会で検討すべき内容や、活動のルール・基準の運用において、CX測定で得られた情報を十分に活用することが重要になります。

CXリーダーシップを活性化する

CXの改善サイクルが確実に定着すると、自社が従来のビジネスのやり方に逆戻りすることはなくなります。しかし、それだけでは持続的な競争優位は築けません。CXで持続的な競争優位を築いていくためには、CXの実践において、一人一人の従業員が自律的にリーダーシップを発揮できるようにすることが重要になります。

従業員がCXのためにリーダーシップを発揮するとき、そこにあるモチベーションは顧客中心のマインドセットです。同時に、実効性のあるCX改善を推進していくためには、CXに関する知識や人間中心デザインのスキルが必要になります。すべての従業員がリーダーシップを発揮できている状態が理想ですが、従業員のモチベーションやスキルを考慮すると、すべての従業員に一斉にCX改善の機会を開放することは現実的ではありません。
そこで、CXチャンピオンプログラムを導入し、効果的な方法で、段階的に、自律的な活動を活性化していきます。CXチャンピオンプログラムでは、従業員からCXに特に関心や熱意を持つ人々、CXに関する知識や経験がある人々を選定し、CXチャンピオン(=CX推進にリーダーシップを発揮する役割)に任命します。CXチャンピオンは以下の役割を担います。

部門・チームメンバーにCXの重要性を啓発する
部門・チームで自らCX施策を立案、推進する
部門・チームメンバーにCXに関する社内外の知識や事例を共有する
部門・チームメンバーにCXに関連するスキルを教育する
他の部門・チームのCXチャンピオンと連携し、共通の目標に向けて情報やノウハウを共有する
CX測定の結果、顧客の声、関連するデータを収集・分析して部門・チームメンバーにフィードバックする

CXチャンピオンプログラムで学んだメンバーから、新たなCXチャンピオンが選定され、CXチャンピオンとして活動します。このプログラムを繰り返し実施することで、組織内でCXチャンピオンを段階的に増やしながら従業員の自律的な活動を活性化していきます。CXチャンピオンプログラムは、顧客中心のカルチャーの浸透、従業員エンゲージメントの向上、変革の推進、顧客に近い目線からのCXの成果など、さまざまな側面でCXの推進に貢献します。

CXを継続的に実施し企業の持続的な成長と競争力を継続的に強化するには、良いCXをデザインするだけでなく、自社組織の意識・体制を整備することがとても重要となります。
とても労力がかかるプロジェクトになりますが、CXマネジメントフレームワークを正しく実施することで、具体性を持って組織体制の改革を行うことが可能になります。


未来のビジネス環境は予測が難しいものですが、CXマネジメントフレームワークを活用しCXを実践することで、企業はその不確実性に対処し持続可能な成長を達成するための強固な基盤を築くことができます。
企業の成長を実現するためにいまからCXマネジメントに取り組み、よりビジネスの未来を切り開きましょう。

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